新型コロナウイルスへの危機管理:想定シナリオを作る

 

 東京海上日動リスクコンサルティング株式会社

主幹研究員 指田 朝久

 

新型コロナウイルスが猛威を振るっている。エボラ出血熱など致死率が高いウイルスの被害は過去にもいくつか発生している。SARSMARSもそうである。しかしながら世界中にパンデミックを起こした致死率2%以上の感染症となると、1918年に猛威を振るったインフルエンザのスペイン風邪以来の100年ぶりの災厄である。

世界中の政府や企業などが生命の安全と経済の恐慌防止の両立を目指した難しい対応を行っている。刻々状況は変化するが、主に日本の企業の観点でいうと4月末現在大きな課題は3つある。感染防止、事業継続、経営継続である。

 

1.感染防止

感染防止は3密を避ける、在宅勤務、テレワークを活用する。万が一感染者が発生した場合の濃厚接触者の隔離と消毒体制の構築などとなる。

 

2.事業継続(BCP

事業継続は製品サービスの供給責任を果たす経営管理手法である。感染症BCPも骨格は標準化されている。主な取り組みポイントは4つある。

 

   クロストレーニング:必須業務ができる要員をかならず複数人育成する。多能工もこれにあたる。

   スプリットオペレーション:要員を2つ以上のチームに分け、できるだけ交流を避けチーム単位の交代勤務とする。稼働率は半分に落ちるが、万が一感染者が発生しても待機させたチームに交代させることで業務を継続できる

   お互い様協定:同業他社と相互支援協定を組み、代替生産の実施や、要員の相互の応援支援を行う

   サプライチェーン資源管理:部品供給会社の停止に備えて複数発注とする。

 

③と④は感染症だけでなく地震や風水害とも同様の対応策である。

 

3.経営継続

現在各企業が悩んでいるのが需要の急速な縮退である。世界各国のロックダウンや日本も自粛要請などで需要が激減している。残念ながら顧客ニーズが無くなることへはBCPの方法論では対処できない。いかに企業を生き延びさせるかは各企業個別の取組となる。この時必要になるのが、この新型コロナウイルスが今後どうなるかのシナリオを描くことである。そこで、今後の見通しにつき楽観的~悲観的まで3つのシナリオを作成した。

 

A 楽観的シナリオ:2020年の北半球の夏に向かって北半球は収束

都市封鎖や入国制限が夏以降解除。日本は医療崩壊を免れる。娯楽施設や大リーグなどスポーツも順次再開。一方、南半球は冬となり流行が継続。2020年末までにアビガンなどの対処法が確立され、またワクチンも開発される。2021年年初に北半球で小規模な流行があるがワクチンの普及により収まり、オリンピック・パラリンピックは開催される。IMF4月に発表した経済予測はほぼこのシナリオを前提としている。

 

B 標準シナリオ:流行期間が2

2020年の北半球の夏に向かって北半球は一旦収束する。都市封鎖、入国制限は解除。日本は医療崩壊を免れる。娯楽施設や大リーグなどスポーツも一旦再開。一方、南半球で流行が継続し、2021年の年初の北半球の冬に再び流行。対処療法はまだ確立せず、ワクチンも開発されるが普及が遅延する。再び主要国で都市封鎖、入国制限が開始され、一年遅れてシナリオAとなるパタン。オリンピック・パラシンピックは予選が開催できないことなどもあり中止または再度の延期となる。

 

C 悲観的シナリオ:数年間流行が継続

2020年は北半球も南半球も収束しない。都市封鎖などで医療崩壊レベルから患者数が一旦落ち着くが都市封鎖を解除すると再び流行を繰り返す。日本も一時期医療崩壊を起こす。アビガンなども抜本的に有効ではなく、対処療法が確定しない。ワクチンも開発が困難でありまた量産化が難しいため、発展途上国や一般人ではワクチン接種が困難な状況が長く続く。60%の人が免疫を獲得するまで数年間流行が継続する。入国制限もなかなか解除されず2022年のワールドカップや2024年のオリンピック・パラリンピックも中止となる。

 

危機管理は最悪のシナリオを描き悲観的に準備し楽観的に対処することといわれている。シナリオもいくつかのパタンを用意することが実践的である。各組織とも複数のシナリオを自社の置かれた状況を踏まえて検討し経営の危機管理を進めていく。本シナリオがその一助になれば幸いである。

 

以上