グローバル・パンデミック・ショックと「危機管理」

 桜美林大学院

平田 潤

 

現在、世界中が新型コロナウイルス感染症の重大な脅威に晒されている。昨年冬に中国武漢に突然登場し、その実態が断片的に報じられ我々の知る所になってから、国境を超えて近隣諸国に波及し、さらにわずか約3か月で、遠く欧米諸国そして地球規模で感染が爆発〔パンデミック〕した。現在(420日)、感染は200以上の国・地域で約240万人、死者も約17万人にのぼっている。各国で治療の第一線を担っている医療従事者の負担・設備への負荷は、日に日に増大しているが、事態の悪化に歯止めがかからず、極めて深刻な災禍となっている。

日本でも各地で感染クラスターが断続的に発生し、首都圏や大都市を中心にPCR検査の陽性反応者が増加し、感染者は1万人を既に超えた。そして4月には日本全域に「緊急事態宣言」が出され、企業はテレワーク体制への移行、飲食店を中心に休業が進み、国民には不要不急の外出の自粛が求められるなど、今や我々は新たな感染症への日常的恐怖に直面している、といえよう。

 

専門家共通して指摘するところでは、①現状世界のどの地域も人々には新型コロナウイルスに対する免疫が無く、ワクチンは現在鋭意開発途上であり、治療過程で抗ウイルス薬や人工呼吸器が効果を挙げているものの、決定力ある治療法はまだ確立していない、②感染力は強く、致死率はインフルエンザよりかなり高く症状はSARSとの類似性が指摘され、③重大な呼吸器症状等を引き起こし、とくに高齢者や基礎疾患保有者の重症化・重篤化が顕著で、④潜伏期間がかなり長い事例や、感染しても発症しない陽性患者も多く、周囲に〔無意識に〕感染を拡大させてしまう(スーパー・スプレッダー、ステルス・キラー)現象が世界各所で生じ、患者が激増している〔結果的に感染力は高い〕など、非常に手強い感染症と考えられている。

 

さてグローバル・エコノミー時代では、国境を超えた貿易/投資は勿論、ツーリズム・エンターテイメント産業の発展が著しく、交通・運輸は高速(航空機)、大量〔大型船〕かつ高頻度で行われるため、ヒト・モノの移動は急速に増大・加速している。そうした中で、新型コロナウイルスの拡散スピードは非常に速く、各国の想定を超えてしまった、といえよう。

 

20世紀末とくに90年代以降には、世界経済は冷戦構造終焉と市場経済化、科学技術の飛躍的発展、とくにIT革命が牽引する第4次産業革命が進展するなかで、グローバル化と共に顕著な発展を続けてきた。その成果は著しいものであったが、グローバル化―即ちヒト・モノ・カネ・情報の移動・流通速度の拡大・増大は、同時にその副作用として、さまざまな危険因子(Global  Dangerous  Elements, GDE)、破壊因子(Global  Disruptor)の拡散も増幅・加速してきた。即ち(a).ISに象徴されるテロリスト,テログループ等)、()モノ(麻薬等の違法・禁止薬物や有害・生態系を激変させる動植物の流入など)、(c)カネ(マネー・ロンダリング、ダークWEB等を使った違法な金融取引)、(d)情報(政府機関や企業、社会のインフラ網に対するサイバー・テロ攻撃、電子機器などへのウイルスやマルウェアによる攻撃、フェイク情報拡散)の各分野で、我々が直接・間接に直面しているリスクである。

そして今回は、以前2018年〕にジョンズ・ホプキンズ大学が報告・警告(The Characteristic of PANDEMIC PATHOGENS)していた(e.)GCBRGlobal  Catastrophic, Biological  Risk、地球規模での破滅的な生物学的リスク)が、新型コロナウイルス感染症の形で実現し、多くの国々に深刻なダメージをもたらしている。

さて、グローバルな危険因子(以下GDE)への危機予防・危機管理の際に登場する「難問」として、諸危機/リスクに最初に直面する「現場」(第一次の当事者として最もリスクに晒される、医療・介護従事者や施設、空港・検疫従事者、各種システム運営・保持・修復担当者他の強化が、実は各国ともに容易ではないことが、否定しがたい「実情」として挙げられよう。

 

平時では総論として「危機管理の基盤となる人的資源や各種インフラ」の重要性は強調されるものの、各論では財政事情による縛りは厳しい。そしてリスクの実現可能性について(統計的・経験科学的に基づいて)低い(ましてやブラックスワンとされる場合もある)と評価されたり、防御体制整備による費用対効果がそれほど大きくないと見做される場合、「現場」はコスト要因として合理化・効率化圧力にさらされ、また統合・再編の名のもとに単なる組織の組換えで終わったり、実質的にカット・簡略化・軽視されかねない。しかしながら、こうした「現場」は、さまざまなGDE(比喩的に言えばウイルス)抵抗する「免疫細胞」に相当する役割を果たすのであり、危機予防・危機管理上、最も重要な位置づけが必要であろう。

 

次にGDE克服に対処する危機管理システムを維持し、高度化していくことが肝要である。今回の新型コロナウイルス等の場合であれば、ワクチン開発や治療薬開発を迅速に行える体制、金融/情報面でのウイルスへの防御体制ではシステム構築・更新(AIやホワイトハッカーの活用も含めて)が必要である。これらは危機管理上の「最安価危機回避者最も小コスト・負担で、最大危機/テールリスクを有効に回避できる、或はそのダメージを最小限にとどめることができうるとして位置付けられよう。(詳細は拙著「21世紀日本型構造改革試論」、弘文堂、2014年)

今回各国の、所謂「医療崩壊」を防ぐための苦闘を見れば、危機予防・管理システムが効果的に機能する重要性が、今更ながら痛感させられる。

 

最後に、危機管理で最も重要なのが優れた「リーダーシップ」である。上記のグローバルなGDEなどがもたらす未知の事態・深刻な危機や、閉塞状況に直面した場合でも、危機を正面から受け止め、危機の原因や背景を検証しつつ、再生に向けて強力かつドラスティックなリーダーシップが必要とされる。現在危機管理が後手に回り、深刻な苦境に立っている米国であるが、かつて米国経済史上空前の危機といわれる大恐慌時に登場したF・ルーズベルト大統領政権が、1939年代に展開した『3つのR(Relief, Recovery, Reform)戦略』は、危機管理政策の要諦・優先順位を示す指針として、今なお教訓的であろう。

 

以上