コロナ危機の経済への影響について

笹子善平

 

コロナ対策による外出禁止やロックダウンにより全世界的に経済の活動が大幅に制限され、GDPの縮小、失業率の急増、企業経営者心理消費者信頼感の低下など起こっており、リーマンショックを超える大恐慌に繋がる可能性があると言われています。

 

疫病という典型的な経済外的要因によるショックのため、経済回復がコロナ対応の成否である社会的距離確保等による蔓延の押さえ込みや治療薬・ワクチンの開発製造などにかかっていることは言うまでもありません。本文では蔓延抑制や治療薬等の対応が年内中に目処が立ち始め一種のイベントとして消化されるとの楽観シナリオの想定のもと、これが世界経済へどのような影響を残すのかを今の時点で考えてみたいと思います。

 

.コロナの起こったタイミング:2020年初の世界経済の潜在的な問題

アメリカ経済は、リーマンショックからの大きなマイナスからの回復という特殊要因があったものの過去の例を見ない長期に亘る景気拡大、株価や不動産市況などはバブルとも言える状況がかろうじて続いている状況でした。EU諸国や日本もほぼ同様です。

 

中国経済は、過去の8%成長からは鈍化したものの世界第2位の経済規模をもって6%程度の数字を維持しており、統計上の問題はあるものの、国営企業に対するテコ入れによりそこそこのパフォーマンスを上げていました。それでも中国経済が徐々に中進国のワナにはまり、現地生産の工場の脱中国の動きや製造業における過剰設備過剰生産、一方経済のサービス化第三次産業の振興には社会主義の制約もありスムーズに進んでいない状況でした。

また、中国は経済を背景に、政治的にもアメリカをはじめG7の西側諸国の国際的制度や枠組みに挑戦するような行為を重ね、アメリカの反発を受けていました。当初期待していた、中国経済が発展すればより効率的な資本主義経済を深化させざるを得ずG7の国際的な枠組みの中に包含し発展を互いに享受できるという考えは裏切られました。「国家資本主義」ともいうべき異形の体制で西側の経済体制や貿易制度と一線を画し、経済援助などを通じた一帯一路構想に基づきブロック経済ともいうべきものを作ろうとしていました。

さらにエネルギー分野では、OPECとロシアやアメリカなどの非OPEC国による生産調整への思惑や潰し合いが行われていたとき、コロナによる経済停止による需要の蒸発が起こりました。

 

. 経済や景気循環の中でのコロナによる活動の休止や国際的移動物流制限のインパクト

かろうじて成長や景気を維持していた世界経済は、コロナをきっかけとして調整に入ると思われます。基調が逆流ですのでV字回復は可能性が低く、イベント対応後は行き過ぎた悲観は後退修正するものの、時間をかけて緩やかな回復フェーズに入る程度と思われます。

また、OPECと非OPECによる潰し合いは、不況で低下する需要とダブルパンチで石油価格に効き、逆オイルショックともいうべき状況になり、経済的には資源価格の低下によるデフレ圧力を長期わたって及ぼすと思われます。資産価格全般も鈍い回復になると思われます。産油国の経済への打撃は大きく、1バレル20ドルで採掘しても採算の取れるサウジアラビアでも黒字予算とするためには7080ドルが必要と言われており、大規模の赤字予算になる見込みです。この財源はOPEC諸国がストックしている莫大な海外資産を換金する可能性が高く、資産価格はその意味でも低迷が予想されます。

 

.時代の流れの中でのコロナのインパクト

グローバル化の流れは、今まで貿易や観光が急拡大してきましたが、サプライチェーンの見直しなど今後の一般的なパンデミック対応による逆の動きはありうると思われます。しかし、インターネットにより情報がこれだけリアルタイムで詳細に共有される状況で、最も有利な物やサービスを求めていく市場のグローバル化の流れは、形を変えることはあっても基調はかわらないと思います。

また、アメリカと中国の関係は、今までの資本主義の深化による包括期待と韜光養晦(とうこうようかい、中国が主導する時の来るまで我慢する)の同床異夢の状況は完全になくなり、多様なフィールドでフリクションは生じると思います。しかし、本来国際社会では全ての国が基本的に自国の利益を優先しており、トランプ大統領の「アメリカファースト」も国際的枠組みを活用するかしないかの差だけで、姿勢は珍しいものではありません。利害対立の中でどのように折り合いつけるかが問題であり、建前ではなく本音でグローバル化は深化していくと思われます。

 

テレワークに象徴されるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、一気に進むと思われます。ともかくやらなければならない事態に追い込まれ広い範囲で対応がなされました。有効でない事例や事故など問題が出たとしても、解決すべき課題として認識され、さらにこの流れは進むと思われます。仕事において物理的制約(場所、部署、組織)が少なくなり、できる人や良いコンテンツはどんどん引き合いがあり、優勝劣敗による淘汰やそもそもサービスのアバンドリング(分解、より良いものを組み合わせる)が進むと言われています。

 

コロナ後の社会のありようはわかりませんが、シリコンバレー黎明期の開発者たちのような「未来を予測することはできないが、未来を作り出していくことはできる。」という気概のある人のものだと思います。

 

以上